■ SCIEF 装置

キャピラリー等電点電気泳動 (CIEF) は迅速、簡便、高分離というタンパク質の分離分析法として極めて優れた特性をもっています1)。しかし、等電点電気泳動の特性上、pH勾配上に焦点化されたタンパク質はキャピラリー内で静止してしまいます。キャピラリーに対して固定された検出器をもつ一般的な装置では、分離が完了したタンパク質を、さらに検出点に移動させるという別のステップを踏む必要があります。この余計なステップによって、CIEF本来の分離能が損なわれ、分析時間が長引きます2)

上記の問題を解決するために、当社は走査検出キャピラリー等電点電気泳動 (Scanning Capillary Isoelectric Focusing, SCIEF) 装置を開発しています(図1)。すでに試作機は完成し、優れた性能を確認しました。現在は市販機の開発を進めています。

図1 SCIEF 装置の作動原理

SCIEF装置は逆U字型に配置したキャピラリーの陰極側の直線部にpH勾配(図の水色の部分)を形成し、ここで分離されたタンパク質を走査検出します(特許技術)。検出はトリプトファンの蛍光に基づくため、非標識のタンパク質を検出できます。直線部のみにpH勾配を形成するには、直線部の上端まで陽極液を注入しておく必要があります。この操作を再現性よく行うために、直線部の上部に非接触電気伝導度検出器を置いて、電気伝導度の変化によって分離液と陽極液の境界を検出します(特許技術)。陽極液が検出されたら注入を停止し、電圧を印加して焦点化を開始します。

SCIEF装置には次のような利点があります。

  1. 分析に必要なのはタンパク質濃度 1 ~ 2 µg/µL の試料 1 µL です。
  2. 1回の分析時間は約15分です。
  3. 非標識のタンパク質をトリプトファンの蛍光で高感度に検出します。
  4. 試料や両性担体液に粘性を高めるポリマーを添加する必要はありません。
  5. 走査検出は複数回行うことができるので、最適な焦点化時間を容易に決定できます。
  6. ペプチド性等電点マーカ3)を利用できます。
  7. 特許技術である抗体カラムとキャピラリー等電点電気泳動の直接結合4) (ACCIEF) を利用できます。(専用カラムは現在開発中)
  8. アフィニティープローブキャピラリー等電点電気泳動5−6) (APCIEF)による分析にも最適化しています。

現在、日栄工業株式会社(福島市)と共同開発した試作1号機が稼働しています。この装置を用いたCIEFの受託分析を行っていますので、ご利用下さい。


参考文献

  1. Shimura K. Capillary Isoelectric Focusing. in: Poole CF, editor. Capillary Electromigration Separation Methods, Handbooks of Separation Science. Elsevier; 2018. p. 167-188.
  2. 志村清仁. pH勾配の in situ 検出がもたらしたキャピラリー等電点電気泳動法の進化. 電気泳動 2020; 64; 31-34.
  3. Shimura K, Zhi W, Matsumoto H, Kasai K. Accuracy in the determination of isoelectric points of some proteins and a peptide by capillary isoelectric focusing: utility of synthetic peptides as isoelectric point markers. Anal Chem 2000;72(19):4747–57.
  4. Shimura K, Nagai T. Capillary isoelectric focusing after sample enrichment with immunoaffinity chromatography in a single capillary. Sci Rep 2016;6:39221.
  5. Shimura K, Karger BL. Affinity probe capillary electrophoresis: analysis of recombinant human growth hormone with a fluorescent labeled antibody fragment. Anal Chem 1994;66(1):9–15. 
  6. Shimura K, Kasai K. Affinity probe capillary electrophoresis of insulin using a fluorescence-labeled recombinant Fab as an affinity probe. Electrophoresis 2014;35(6):840–5. 

特許情報

  • 日本国特許
    • 特許番号 特許第7045737号
    • 出願日 2021. 1. 15
    • 登録日 2022. 3. 24
    • 【発明の名称】走査ユニット、システムおよび方法
    • 発明者 志村清仁
    • 特許権者 エースバイオアナリシス株式会社
  • 日本国特許
    • 特許番号 特許第6422131号
    • 出願日 2014. 10. 14
    • 登録日 2018. 10. 26
    • 【発明の名称】分離分析用キャピラリーデバイス、分離分析用マイクロ流体チップ、タンパク質又はペプチド分析方法、電気泳動装置、及び分離分析用マイクロ流体チップ電気泳動装置
    • 発明者 志村清仁、長井俊彦、福原修一、瀬戸善一
    • 特許権者 公立大学法人福島県立医科大学、日栄工業株式会社
  • United State Patent
    • Patent No.: US 9,927,399 B2
    • PCT Filed: Oct. 14, 2014
    • Date of Patent: Mar. 27, 2018
    • CAPILLARY DEVICE FOR SEPARATION AND ANALYSIS, MICROFLUIDIC CHIP FOR SEPARATION AND ANALYSIS, ANALYSIS METHOD FOR PROTEINS AND PEPTIDES, ELECTROPHHORESIS INSTRUMENT, AND MICROFUIDIC CHIP ELECTROPHORESIS INSTRUMENT FOR SEPARATION AND ANALYSIS
    • Inventors: Kiyohito Shimura, Toshihiko Nagai, Shuuichi Fukuhara, Yoshi-ichi Seto
    • Assignees: Kiyohito Shimura, Nichiei Industry Co., Ltd.