■ pH 勾配 (pH gradient)

等電点電気泳動を行うには pH 勾配が必要です。pH 勾配を作る方法には次のようなものがあります。

  • pH の異なる緩衝液を混合比を変えながら混ぜ合わせる。
  • 上記の pH がしだいに変化する緩衝液成分をゲルに結合させて固定する。
  • 両性担体溶液に直流電場を印加して、pH 勾配を発生させる。

緩衝液の混合で作成する pH 勾配は時間とともに変化します。緩衝液成分をゲルに固定した pH 勾配は極めて安定で、等電点電気泳動にとても適しています。しかし、キャピラリー内に固定した pH 勾配ゲルを分析ごとに入れ替えるのはたいへんな作業です。両性担体を使う pH 勾配は、キャピラリー等電点電気泳動に最適な方法です。両性担体を試料と共にキャピラリーに注入し、電場をかければ自動的にpH勾配が発生します。このため、「自然発生的な pH 勾配 」(natural pH gradient) と呼ばれています。

両性担体溶液を酸溶液である陽極液と塩基溶液である陰極液で挟んで直流電場を印加すると、正の実行電荷(正味の電荷)をもつ両性担体は陰極方向へ、負の実効電荷をもつ両性担体は陽極方向へ電気泳動します。このため、通電した初期は比較的多くの電流が流れます。両端を酸溶液と塩基溶液で挟まれているため、両性担体はそれらとの境界を越えることはなく、電極液の間で等電点の順に整列し、pH 勾配をつくりだします。pH 勾配が完成すると、電流量は一定の小さな値になります。

両性担体によって作られる pH 勾配は、一旦できあがるとほとんど変化しないように見えますが、すこしずつ変化します。pH 7以外では、水素イオンか水酸化物イオンが過剰に存在しますので、等電点にある両性担体はこれに釣り合う反対の電荷をもたなければなりません。したがって、完成した pH 勾配の酸性側では両性担体は若干の負電荷を、塩基性側では若干の正電荷を帯びています。これらの電荷を帯びた両性担体はゆっくりと両極側に電気泳動するため pH 勾配はしだいに広がっていきます。その広がり方は pH 勾配の端ほど大きくなります。長時間焦点化を行う場合にはこのような pH 勾配の経時的な変化も考慮する必要があるでしょう。