■ 1.モノクローン抗体

抗体医薬の一つセツキシマブは多くの等電点バリアントを含んでいます。図1はセツキシマブの等電点バリアントを走査検出キャピラリー等電点電気泳動装置(SCIEF)で分離した結果です。

セツキシマブの分離
図1 走査蛍光検出キャピラリー等電点電気泳動装置(SCIEF装置)によるセツキシマブの分離(pH 3-10、標準分離液、横軸は焦点化を開始してからの時間)

セツキシマブはSCIEFの標準的な分離液で良好に分離されますが、タンパク質によっては、セツキシマブと同じ条件下では上手く分離されないものも多くあります。例えば、あるモノクローン抗体試料を図1のセツキシマブと同じ条件で分離した結果を次に示します(図2)。

McAb #16 スパイクの生成
図2 モノクローン抗体(#16)の分離(pH 3-10、標準分離液)

一見したところ、たくさんのピークが分離されているように見えますが、これらのピークのほとんどはタンパク質が凝集してできた沈殿物によると考えられます。これらはスパイクと呼ばれ、正常に焦点化したタンパク質のピークではありません。溶解状態にあるタンパク質が焦点化したピークは基部が若干広がった正規分布の形をしているので、基部の形に注目することで見分けることができます。また、スパイクは焦点化位置やピーク高さの再現性が乏しいという特徴があります。等電点電気泳動における凝集の問題に対してはポリオール、両性電解質、界面活性剤、尿素などの添加剤を分離液に加えることが提案されています。図2のモノクローン抗体を別の分離液で分離した結果を図3に示します。

図3 モノクローン抗体(#16)の分離(pH 3-10、沈殿化防止分離液)

この条件下では焦点化の完了に少し多くの時間を要しますが、凝集によるスパイクが無くなり、再現的に等電点バリアントの分離像を得ることができます。セツキシマブのようにキャピラリー等電点電気泳動による分離が容易なタンパク質もあれば、添加剤の工夫が必要なタンパク質もあります。添加剤の種類と濃度を最適化するには、複数回の実験が不可欠ですが、1回の分離を10 ~ 20分で完了するSCIEF装置はその点で極めて有利です。