■ APCIEFとは
APCIEFはアフィニティープローブキャピラリー等電点電気泳動 (Affinity Probe Capillary IsoElectric Focusing) の略称です。分析対象のタンパク質に結合する性質をもつタンパク質やペプチドを蛍光色素で標識してアフィニティープローブ (AP) とします。APを試料に加えると、速やかに目的のタンパク質に結合し蛍光性の複合体を形成します。ここに両性担体を添加してキャピラリー等電点電気泳動を行うと、複合体は遊離のAPとは異なる位置に焦点化します。さらに、目的のタンパク質が等電点バリアントを含む場合には、複合体にもそれが反映されて、各等電点バリアントの複合体がそれぞれ異なる位置に焦点化します(図1)。
■ APCIEFの利点
目的タンパク質とAP はともに溶液中にあるため、複合体形成は極めて速やかに進行し、混合後 2 ~ 3分後に分離を開始しても、複合体のピーク面積はすでに最大値を示します。そして、蛍光色素はレーザーを光源とする蛍光検出で極めて高感度に検出されます。トリプトファンの蛍光に基づく非標識タンパク質の検出に比べて、検出感度は1000倍以上です。さらに、APとAPとの複合体以外は検出されないので、試料中の夾雑タンパク質は一切検出に影響しません。すなわち、APCIEFでは試料中の目的タンパク質のみを特異的に分離検出できます。また、APCIEFはピークの等電点を決定しつつ定量を行えるので、非特異的な信号を完全に見分けて正確な定量が行えます。ダイナミックレンジは広く、100倍以上の濃度の変化に対して直線的にピーク面積が増加します。
APCIEFの利点のまとめ
- 迅速分析(15分以内)
- 高感度(検出限界 1 pM)
- 夾雑タンパク質存在下でも特異的に検出
- 非特異的な信号に影響されない
- ダイナミックレンジが広い
■ APに必要な条件
では、APに必要な条件は何でしょうか。まず、APの等電点は目的タンパク質のそれと異なることが必要です。等電点に差がなければ、複合体ピークがAPのピークから分離することは期待できません。次にAPは電荷的に均一である必要があります。APが電荷的に不均一であれば、電荷的に均一な目的タンパク質に対して複数の複合体ピークを発生してしまうからです。また、APの結合価数が1価であることも重要です。APが2価の場合、1:1複合体ピークと1:2複合体ピークが生じてしまいます。さらに、複合体がある程度の安定性を持つことも必要です。等電点電気泳動で複合体が遊離のAPから分離されると、複合体は解離反応のみが進行するからです。しかし、キャピラリー等電点電気泳動で焦点化に要する時間は5 ~ 10分と短いので、このハードルはさほど高いものではありません。
APに必要な条件のまとめ
- 目的タンパク質と異なる等電点をもつ
- 電荷的に均一である
- 結合価数が1価である
- 複合体が安定である
■ APに適した分子
このような条件を満たすAPの候補分子はモノクローン抗体のFab断片です。ただ、マウスやマウスの細胞で作られたモノクローン抗体を材料として調製したFabは、すでに多くの電荷バリアントを含んでいるためAPには適していません。モノクロ−ン抗体のFab断片を組換えタンパク質として大腸菌に生産させると、均一性に優れたFab断片が得られます。さらに、組換えタンパク質では部位特異的標識に適したシステイン残基を導入できるため、さらに有利になります。したがって、モノクローン抗体の組換えタンパク質である、Fab断片やscFv(一本鎖抗体)がAPに適しています。数十個のアミノ酸からなるペプチドが利用できれば、APCIEFの利便性はさらに増すと考えられます。
APに適した結合分子のまとめ
- 組換えFabやscFv
- 結合ペプチド
APCIEFはAPを用意する必要があるため、同じタンパク質や共通のエピトープを持つタンパク質群を繰り返し分析する必要がある場合に適しています。あなたが目的のタンパク質に対する抗体を産生するハイブリドーマをお持ちである、あるいは結合ペプチドをお持ちなら、APCIEFシステム構築の第1ステップはすでに完了しています。エースバイオアナリシスはAPCIEFシステムの完成に向けてお手伝いをいたします。
■ 価格・納期
ご依頼の内容により異なりますので、お問い合わせください。
参考文献
- Shimura K, Karger BL. Affinity probe capillary electrophoresis: analysis of recombinant human growth hormone with a fluorescent labeled antibody fragment. Anal Chem 1994;66(1):9–15.
- Shimura K, Kasai K. Affinity probe capillary electrophoresis of insulin using a fluorescence-labeled recombinant Fab as an affinity probe. Electrophoresis 2014;35(6):840–5.